ⓔコラム2-1-8 mal de débarquement症候群

 健常者でも動く乗り物 (船,航空機,車など) に長時間乗った後,下車してから揺れている感覚を自覚する場合がある.いわゆる後揺れ (身体がよろめき揺れている感覚) であるが,これは数時間から数日,通常は48時間以内に消失する.この症状が1週間からそれ以上,数カ月以上も続くものを下船病 (mal de débarquement症候群) という.通常は1年以内に治癒することが多い.

 静止空間への再適応障害がその病態と考えられている.動揺病とは異なり,じっとしているときに最も症状が強く,歩行や運転などの実際の動きによって軽減する.身体が著しく揺らいでも車や自転車の運転が可能である.一方で,読書,パソコン,作業や調理が苦痛となり,QOLが著しく低下して,休職や休学を余儀なくされることがある.ベンゾジアゼピン系薬剤の効果が望める症例があることが報告されている.既往に転倒,頭部打撲や交通事故がある場合には,脳脊髄液減少症との鑑別が必要となり,ブラッドパッチなどの治療が奏効する場合がある.

〔池園哲郎〕